骨董建築写真館 道頓堀・中座篇
骨董建築写真館

道頓堀・中座篇

左:中座のシンボル、大提灯。
中:芝居小屋の華やかさを伝える正面。
右:正面の大看板。

大阪市旧南区(現中央区)の道頓堀といえば江戸中期よりの伝統ある芝居小屋街で、近松門左衛門、井原西鶴の時代より我国の演劇の中心地であり続けた、ブロードウェイよりも浅草よりも遥かに歴史の古い興行街なのである。その中でも中座、角座、朝日座、浪花座などは道頓堀五座と呼ばれ、元禄時代以来三百五十年以上の歴史を有する由緒正しい劇場なのだ。近年では宮本輝先生の“川三部作”の一つ、「道頓堀川」(映画化された)の舞台として、そして阪神ファンが飛び込む川として(笑)としても知られている。

しかし現在では角座は寄席に、浪花座は映画館(昭和初期の貴重な近代洋風建築ではある)となり、朝日座は文楽(人形浄瑠璃)が国立文楽劇場へ移転し消滅した。中座は敗戦後の現代建築であるとはいえ、大きな千鳥破風屋根に櫓を上げた旧来の芝居小屋の外観と伝統的な舞台装置を有する、古いタイプの芝居小屋の最後の生き残りであったのだ。また京都の南座とともに上方歌舞伎界で最も格式の高い劇場だった訳だが、とうとう昨年秋でその長い長い伝統の燈を消すことになってしまった。
持主の松竹を責めることは酷であろう。同社の経営は決して楽な状況ではないのに、京都・祇園の南座、大阪・道頓堀の松竹座と、同社所有の二つの歴史的名建築を保存運動に応えきちんと残してくれた。一民間企業である同社に、これ以上の負担を求めるには無理がある。要は文化に金を出さない癖に無駄な公共事業には膨大な税金を注ぎ込もうとする愚かで無能な政府、府、市の責任なのである。確かに戦後の、それも鉄筋コンクリートの建築ではあるが、我国の大都市に現存する最後の旧式劇場であり、その文化財的価値は計り知れない。今は閉鎖され、廃墟となってその姿を晒している中座を見る度に、日本の文化度の低さを象徴する光景そのものに思え、暗澹たる気持にならざるを得ない。
今回の写真は、閉鎖間際に大阪音楽大学が行ったコンサートの折に撮影したものである。更にその後、母と林家染丸師匠の独演会を桟敷席で観、この劇場に名残を惜しんだ。

左:一階席より花道を見る。
中:桟敷席。
右:二階席より一階を見下ろす。

左:格式高い芝居小屋の象徴、舞台に架かる唐破風屋根。
中:カーテンコール中のステージ。
右:緞帳。

左:廊下にずらっと並ぶ桟敷席の扉。
中&右:壮大な千鳥破風屋根と櫓。

左:今も昔も道頓堀の雑踏は変わらない。
中:中座の真向かいにある老舗芝居茶屋「三亀」。
左:戎橋南詰にある幽霊ビル。最近まで一階のみ店舗が入っていたが、とうとう閉鎖された。じきに破壊工事が始まりそうな様相である。今や貴重な戦前の様式建築であるだけに、大変惜しまれる。

同ビル旧正面側。丸みを持たせた角に正面を持ってくるのは、様式建築に良くある手法である。アーチ窓の連なる見事なネオ・ルネサンス様式だけに、何とか再活用できないものか、と思う。個人的には廃墟のままでも十分に美しいが、というより廃墟は大好きなのだが、都心の超一等地であるだけにそれは無理であろう。修復すれば相当ハイセンスなビルとして甦ることは間違いないのだが・・・・・・。しかし「廃墟の存在する余地」すらない管理され尽くした都市というものも、何やら息が詰まるような心地がする。かつてはこのビルに「ナンバ一番」という有名なライブハウスが入居していたとのこと。

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